弁護士の偏在による弁護士への負担が浮き彫りになりました。裁判員裁判においていかに分かりやすく説明するか、その為に必要な映像、動画、パネルをどれだけ準備出来るか、この点において弁護士は検察に比べると圧倒的に不利な状況ということです。特に地方となるとその差は歴然。弁護士が自らの準備不足を弁護してから始まる裁判なんて・・・しばらく様子を見た方がいいでしょうが、改善の必要がありますね。◆裁判員裁判、地方ならではの苦悩 遠隔地、弁護士の負担増…(9月25日 産経新聞)
全国で本格的に始動した裁判員裁判。東北6県でも今月2~4日に青森地裁で行われたのを皮切りに、今月末から11月半ばにかけ、各地裁・支部で相次いで 開かれることが決まっている。青森地裁の審理では、弁護側が遠隔地の被告と接見する負担の大きさを強調するなど、地方ならではの苦悩が垣間見られた。青森 のケースを振り返り、東北での裁判員裁判の課題を検証した。
「検察官のような潤沢な準備はできていませんが…」。2件の強盗強姦罪などに問われた男(22)の審理が行われた青森地裁。2日の初公判で、弁護側の冒頭陳述に立った主任弁護人の竹本真紀弁護士は、こう自分たちを卑下することから始めた。
検察側は、青森地検ナンバー2の田野尻猛次席検事を筆頭に男女4人を並べる重厚な布陣で、事件の経過を一覧表にしたパネルを立て掛けるなど、準備に抜かりがなかった。公判の日程に合わせてリハーサルも入念に繰り返したという。
竹本弁護士は通常業務をこなしながら、週に1、2回、車で往復3時間かけて、男が拘置された十和田署まで通わなければならなかったという。地元の弁護士 とペアを組んだが、「今回は本来ならば八戸支部の事件だ。接見時間も限られ、十分な打ち合わせができなかった」と嘆いた。
実際、男が自分に不利な証言をしてしまう場面が何度も見られた。例えば、女性への制裁で強姦をしたという点。検察側が「なぜ制裁の手段に強姦を選んだの か」と問われ、「女性に暴力をしてはいけないと教えられていた。それ以外で思いついたのが強姦だった」と平然と答えている。
判決は、検察側の求刑通り15年だった。公判を傍聴した弘前大の飯孝行准教授(裁判法)は「検察側は逐一、次席検事がチェックししながら進めていた。準備の違いで、量刑が決まってしまったところもあるのではないか」と振り返る。
東北6県では県庁所在地の地裁本庁のほかに、29の支部が置かれているが、裁判員裁判が行われるのは本庁と福島地裁郡山支部の7カ所に限られる。警察の拘置施設は各県全域に広がっているため、竹本弁護士のような苦悩は、これからも出てくると思われる。
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弁護士の地域的偏在も見逃せない問題だ。
平成20年の弁護士白書によると、人口10万人あたりの弁護士数を示す「弁護士率」は、全国7位(12・06人)の宮城を除き、青森47位(4・55 人)▽岩手45位(5・06人)▽秋田43位(5・35人)▽山形42位(5・42人)▽福島40位(5・56人)-と弁護士不足が顕著になっている。
さらに、青森、岩手、福島の3県では40歳以下の若手の占める割合が高く、経験を積んだ中堅が充実していない。町村部の弁護士になると、刑事裁判をほとんど経験していないケースも珍しくないという。
「被告との接見は地元の弁護士、法廷での弁論は都市部のベテランと住み分けるのだろう。それでも弁護士の負担は確実に増大し、審理に影響してくる」。飯准教授はこう憂慮した。
地裁本庁で一括して審理することは、遠隔地の裁判員候補者にも負担となる。
青森地裁は今回、裁判員の選任手続きを初公判前日にした。遠隔地の候補者に配慮したとみられるが、出頭を求められた39人のうち、出席者は34人にとどまった。1件目の東京地裁で49人中47人、2件目のさいたま地裁では44人中41人だったのに比べると少ない。
候補者だった十和田市のの松井満さん(53)は「保険代理業を1人でやっているので、裁判員になれば完全に仕事を休まなければならない。選任手続きということで顧客にも理解してもらったが、審理が3日間になると厳しい」と率直に打ち明けていた。
飯准教授は「農林水産業など家族経営の人が裁判員になれば、たとえ3日間であっても負担は大きい。選任手続きの出席率が低かったことは、そうしたことも影響しているかもしれない」としている。
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青森地裁で開かれた裁判員裁判の3日間の審理を取材し、改めて感じたのは、人を裁く立場に置かれた裁判員の負担の大きさだ。
判決公判後の記者会見。裁判員経験者の男性が感情を抑えきれず涙を流す場面があった。人の運命を決める重圧やそれを乗り越えた達成感、さまざまな思いが胸をよぎったことだろう。
中には守秘義務違反を憂慮して「今後は深酒はできないかもしれない」とボヤく経験者も。裁判員体験は公判を終えた後も、その後の人生に深刻な影響を及ぼす可能性がある。
一方で、制度の意義を強く感じる場面にも出くわした。被告人質問で、女性裁判員が投げかけた言葉。「被害者が帰宅したとき、逃げてさえいれば、凄惨(せいさん)な事件にはならなかったと思います」
プロの裁判官からこうした“意見”が述べられることはほとんどない。訴えかけるように発せられた一言に、被告が「はい」と素直にうなずいた意味は小さくないのではないか。
今後、自分を含めて誰もが裁判員になる可能性がある。適用罪名や量刑の判断だけではない、プラスアルファの部分にこそ、負担を差し引いても裁判員を引き受けるだけの価値があると感じた。